〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)

〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書) の詳細

「なぜ麻薬を使ってはいけないのか」，「なぜ法律で規制されているのか」といった質問に自信を持って答えられる人はどの程度いるでしょうか．また，「麻薬を使うことでなぜ社会的信用を失わなければならないのか」という質問についてはどうでしょうか．本書によると，麻薬とは微量で麻酔作用と向精神作用（興奮，鎮静，幻覚など）を発揮し，使用を中止すると激しい禁断症状を起こす，乱用のおそれのある薬剤の総称です．マスコミでも医学論文でも，たばこやアルコールの害（依存性，発がん性など）が頻繁に扱われますが，本書を読めば，麻薬の依存性はたばこやアルコールの比ではないことが分かります．また，モルヒネの過剰摂取は呼吸中枢の停止による死亡の危険性があること，大麻の摂取は自発性の喪失や情緒不安定，暴力などを引き起こすことなど，麻薬の害についてもしっかりと書かれています．更に，麻薬を使い始めると，麻薬を買うための金が必要になり，犯罪に手を染めるケースが多いとも記載されています．このように，麻薬の使用は本人にとっても，周囲の人間にとっても大きな損害につながるため，使用する本人を保護し，周囲の人間への損害を防ぐために法律で規制されているのだと納得できました．一方，麻薬を使う人は迷惑ではあるものの，道徳的に強く批判される必要はないとも思いました（麻薬を使う人よりも，例えばいじめをする人間の方が道徳的には問題だと私は思います）．また，どのような種類の薬剤が麻薬に属するのか，麻薬が歴史上どのように登場したのか，合法薬物といかに近い位置にあるのかといったことも本書には記載されています．恥ずかしながら，大麻，覚醒剤，コカイン，阿片がそれぞれ別の薬物であることを私は初めて知りました．また，クリミア戦争，アメリカの南北戦争などの近代戦争で，モルヒネが鎮痛剤として使われ，戦傷者に多くのモルヒネ依存者が出たこと，ワインにコカの葉（コカインの原料）を加えたものが市場に出回っていたことなど，麻薬がいかに一般大衆と近い位置にあったのかがよく分かりました．残念だったのは，麻薬の害について臨床的なデータや数値が示されておらず，説得力をやや削いでいる点です．ただ麻薬に関して幅広い知識が得られる本であり，興味のある方にはぜひ読んで頂きたいです．